就職・転職活動にあたって働き方を考えたとき、正規雇用のほかに非正規雇用という選択肢があります。
さらに非正規雇用もいくつかの雇用形態に分かれており、どの働き方を選べば良いのか迷ってしまう方も多いでしょう。
本記事では、非正規雇用の定義や種類、メリットを解説します。
また、自分が望む働き方ができるかどうか見極めるため、非正規雇用の問題点についても確認しておきましょう。
目次
非正規雇用とは?
非正規雇用とは、「正規雇用契約以外の雇用」を指します。
対する正規雇用は、使用者と期間の定めのない労働契約を結び、基本的にフルタイムで働く雇用形態のことです。
一般的に正社員と呼ばれる方は、後者の正規雇用にあたります。
非正規雇用の種類
非正規雇用に該当する雇用形態には、以下のようなものが挙げられます。
- 契約社員
- 嘱託(しょくたく)社員
- 派遣社員
- パート・アルバイト
厚生労働省が2022年に発表したデータによると、労働者のうち非正規雇用の割合は36.9%でした。
その内訳はパート・アルバイトが70.2%、契約社員が13.5%、派遣社員が7.1%、嘱託社員が5.3%、その他が4.0%です。
非正規雇用労働者の数は2010年以降増加傾向にあり、2020年と2021年は減少したものの、2022年に再び増加しています。
それぞれの契約形態の特徴
一口に「非正規雇用」といっても、契約社員と派遣社員、嘱託社員、パート・アルバイトにはそれぞれ働き方に違いがあります。
それぞれの特徴を押さえて、自分に合った働き方を検討してみましょう。
契約社員
契約社員とは、労働契約の期間が決まっている社員です。
有期労働契約の期間は、労働基準法により最長3年(専門職や60歳以上の場合は最長5年)と定められています。
実際は1年間の労働契約を締結し、1年ごとに更新か否かを判断するケースが多いでしょう。
企業と契約を更新すると、新たに雇用期間が設けられます。
契約を更新せずに契約期間が終了すると、期間満了での退職という扱いです。
また、有期雇用契約が通算5年を超えて更新されることが確定した場合、その契約期間中であればいつでも会社に対して無期雇用契約への転換を申し込むことができ、会社側は労働者からのその申し込みに必ず応じなければなりません。このため 、会社としては5年を超える期間の契約の更新については慎重になるケースが多く、契約期間満了で打ち切ることが社会問題になりました。
派遣社員
派遣社員とは、派遣会社と雇用契約を結び、別の企業に派遣される社員です。
派遣される企業と雇用関係はなく、派遣元である会社と雇用契約を結びます。
よって、派遣社員の給与の支払いや有給休暇など、福利厚生を決めるのは派遣元の派遣会社です。
派遣会社と派遣社員、派遣先の企業の関係性については下図をご参照ください。
派遣社員として働くには派遣会社に登録する必要があり、就業先の紹介や就業中のサポート、条件の交渉までサポートしてくれるでしょう。
実際の業務に関する指示は、派遣先の企業から受けます。
嘱託(しょくたく)社員
嘱託社員は、大きく以下の2種類に分けられます。
- 定年退職後に再雇用された労働者
- 特殊な知識・スキルを持った労働者
1に該当する労働者は、定年を迎えたあとに再度同じ企業に雇用される社員を正規雇用と区別するために「嘱託社員」と呼ばれています。
2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、企業の定年引き上げや再雇用制度の導入が努力義務に定められたため、今後増える可能性がある働き方です。
2に該当する労働者は、企業が専門性の高い資格を持った人材へ仕事を依頼するケースを指します。
医師、弁護士などと請負契約を結ぶことで「嘱託医」「嘱託弁護士」といった形で雇用が可能です。
パート・アルバイト
パートタイム労働者とは、同じ企業に雇用されている正規雇用の社員と比べて1週間の労働時間が短い労働者を指します。
パート・アルバイトは両者とも法律上は「パートタイム労働者」に該当する働き方です。
パートとアルバイトは、労働者の年代と想定される勤務期間に違いがあります。
パートは勤務時間が比較的短いものの、長期で働けるような主婦・主夫やシニア世代を想定する場合が多いでしょう。
一方のアルバイトは、学生などが期間限定で働くことを指す傾向にあります。
非正規雇用のメリットは?
非正規社員のメリットは、一つの職場や仕事に縛られずに働けることです。
雇用期間に期限があるほか勤務日数・時間も短いことから、ワーク・ライフ・バランスがとりやすいでしょう。
総務省統計局の2023年4~6月期の「労働力調査」によると、非正規労働者が今の業務形態を選んだ理由は「自分の都合の良い時間帯に働きたい」が最も多く、34.9%を占めています。
非正規雇用は自分の希望する勤務条件を実現させやすく、プライベートと仕事を両立したい人に適した働き方といえるでしょう。
非正規雇用の問題点・措置
非正規雇用の仕事はプライベートを重視できる一方で、問題点もあります。
ただし、問題点を少しでも改善するための措置が法律によって定められているため、非正規雇用として働く前に現状を知っておきましょう。
非正規雇用の問題点
非正規雇用の問題点として、以下の2つが考えられます。
- 正規雇用との待遇格差
- 不安定な雇用
非正規雇用は正規雇用と比較して給与が低い場合が多く、手当金や賞与は期待できないかもしれません。
さらに、非正規雇用は解雇されるリスクが正規雇用より高く、キャリアアップが難しい側面もあります。
これらの問題について詳しく見ていきましょう。
正規雇用との待遇格差
国税庁が公表した2021年の「民間給与実態統計調査」によると、正規雇用の平均年収は508万円であるのに対し、正規雇用以外の平均年収は198万円でした。
正規雇用と非正規雇用では年収に310万円もの差があります。
非正規雇用は月の給与が低く、さらに手当や賞与、退職金を受け取れないなど賃金や制度面でのデメリットを感じるかもしれません。
正規雇用との経済的格差が原因で、望んでいるのにも関わらず結婚や出産ができない方が増えるなど、少子高齢化にも影響があります。
経済的格差が広がれば消費者の購買力も低下し、企業の利益が減少するという負の連鎖に陥る恐れもあるでしょう。
不安定な雇用
非正規雇用は、契約更新の際に契約が打ち切られる「雇い止め」に遭う可能性があります。
契約期間の満了を理由とする雇い止めは、原則的に違法ではありません。
非正規雇用の社員は、長期的な雇用を前提とした正規雇用と比べて解雇を検討されやすい存在ともいえます。
企業の業績が悪化すれば、正規雇用よりも解雇の対象となるリスクは高いでしょう。
たとえ業務に関する重大なミスを犯してなくても、不景気の影響を受け解雇されるケースも考えられます。
また、非正規雇用の社員はキャリアアップも難しくなりやすいのが実情です。
責任のある仕事よりは特定の業務を任されるため、昇給や昇進の機会が少なくなります。
このため非正規雇用の社員がキャリアアップをするには、正規雇用をめざす必要があるでしょう。
非正規雇用の問題点に対する措置
上記のような非正規雇用の問題に対する措置として、法律で「同一労働同一賃金」と「雇い止め法理」が定められています。
同一労働同一賃金とは「非正規雇用の社員が正規雇用の社員と同じ業務を行う場合、賃金や福利厚生を同じように与える義務がある」というルールです。
雇い止め法理は、合理的理由がない雇い止めは無効になるルールを指します。
非正規雇用で働くときには、いずれのルールもきちんと理解しておきましょう。
同一労働同一賃金
非正規雇用と正規雇用の金銭的格差への措置として「同一労働同一賃金」があります。
これは、同じ企業内において同じ仕事をしている場合、非正規労働者と正規労働者とのあいだで賃金に不合理な差をつけることを禁止する決まりです。
同一労働同一賃金は、2021年4月からすべての企業で適用されています。
同一労働同一賃金の根拠法である「パートタイム・有期雇用労働法」における待遇差とは、賃金の格差だけではありません。
賃金以外に福利厚生や教育制度も含まれているため、非正規雇用であっても福利厚生施設を利用したり、研修を受けてスキルアップをめざしたりできるでしょう。
雇い止め法理
雇い止め法理とは、合理的な理由のない雇い止めは無効になるルールを指します。
雇い止めが無効になると、会社は雇用契約の更新を強制され、非正規雇用の社員は引き続き同じ企業で働くことが可能です。
雇い止め法理は、以下のケースのいずれかに該当したときに適用されます。
- 契約社員の更新手続きが正規雇用と同一視できる状態にある場合
- 契約社員が雇用契約の更新を期待する合理的な理由がある場合
1の条件は、契約更新の際に雇用契約書を作成していないケースなどが該当するでしょう。
2の条件は、業務内容や待遇が正規雇用と同じであったり、上司から長期の雇用を約束する発言があったりした場合に適用されます。
プライベート重視なら非正規雇用も検討してみよう
非正規雇用とは、正規の雇用契約(無期限・フルタイム勤務)を結ばない労働者です。
非正規雇用のなかにも契約社員や嘱託社員、派遣社員、パート・アルバイトなどの種類があり、それぞれに特徴を持ちます。
非正規雇用の働き方の多くは、仕事とプライベートを両立しやすいことが利点です。
その一方で、正社員との待遇格差があったり、雇用が不安定に感じたりするケースもあるかもしれません。
これらの問題に対する措置として同一労働同一賃金や雇い止め法理があるため、必要に応じてこれらのルールも活用し、非正規雇用として満足できる働き方をめざしましょう。