傷病手当金は、退職後も受給できます。
退職を検討している方や、傷病手当金の有無で退職の判断を迷われている方、また、傷病手当金を受給中で退職後の将来について悩む方、さらには傷病手当金を受けている方のご家族に向けて、本記事では傷病手当金の退職後の申請方法や受給条件について詳しく解説します。
傷病手当金に関する正確な情報を得ることで、退職後の経済的な不安を軽減する手助けとなるでしょう。
目次
退職後の傷病手当の受給条件は?
退職後の傷病手当金を受給するには、主に以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 退職日まで継続して、1年以上の被保険者期間がある
- 退職日に出勤していない
- 退職時に傷病手当の受給条件を満たしている
それぞれの条件について詳しく解説します。
退職日まで継続して1年以上の被保険者期間がある
退職後に傷病手当金を受け取りたい場合、注意すべき条件の一つは、保険料を納付している期間です。
具体的には、被保険者の資格を失う日の前日(退職日)までに、1年以上にわたって健康保険に加入している必要があります。
この期間に、健康保険を任意で継続する「健康保険任意継続制度」を利用した期間はカウントされないことに留意してください。
また、転職などにより保険加入期間が途切れていないか、確認しておきましょう。
※「健康保険任意継続制度」とは、退職後も健康保険に自己負担で加入し続けることができる制度です。
なお、国民健康保険には、傷病手当金制度がありません。
転職などの際に、一時的に国民健康保険に加入していても、継続扱いにはならないので注意が必要です。
退職日に出勤していない
退職日に出勤してしまうと、退職日翌日以降の傷病手当金を受給できなくなります。
継続給付の条件を満たさなくなるためです。
事務手続きや会社にある私物整理のための出社は問題ありませんが、その際には出勤扱いにならないように気をつけることが重要です。
出社したとしても、業務は行わないようにしましょう。
退職時に傷病手当の受給条件を満たしている
退職時に傷病手当金を受給できる条件には、以下の4つがあります。
- 疾病または負傷のため、療養中であること
- 労務不能であること
- 労務不能になった日から3日を経過していること(3日連続で休業した場合、第4日目から支給)
- 給与の支払いがないこと
休職中に傷病手当金を受け取っていた方は、すでにこの4つの条件を満たしているはずです。
ただし、休職に至った傷病と同じ理由での退職でなければ、退職後の継続受給はできません。
また、休職期間中にすでに1年6ヵ月の給付期間を超えて受けていると、それ以上の受給ができません。
退職後の傷病手当の申請方法は?
退職後の傷病手当金を申請する際、会社の許可は不要です。
医師の証明書を取得後に、自分で社会保険事務所などに申請するという流れになります。
以下では、具体的な申請方法や必要書類などについて、詳しく解説していきます。
会社の許可なしで申請可能
傷病手当金は被保険者(または被保険者であった人)の権利として、業務が原因で仕事ができなくなったときに申請可能です。
退職後の申請には、会社の許可は必要ありません。
本人が直接、社会保険事務所などで手続きを行い、申請できます。
ただし、傷病手当金支給申請書の「事業主記入欄」に、会社の担当者による記入が必要になることは、ご承知おきください。
なお、在職中または退職直後に傷病手当金を申請する際は、会社が申請します。
医師の証明書を取得後に自分で申請する
申請には傷病の証明として、医師による診断書が必要となります。
必要に応じて添付書類も用意し、これらの書類を加入していた保険者(協会けんぽや健康保険組合)に提出します。
添付書類は被保険者によって異なるので、申請前に保険者に確認しておきましょう。
退職後の傷病手当の受給額や期間は?
退職後の傷病手当金の受給額は、受給者の過去の給与に基づいて計算されます。
ここでは、受給額の計算方法と受給期間について、具体例を交えて説明します。
傷病手当の受給額の計算式
1日あたりの傷病手当金の支給金額は、次の計算で算出可能です。
「支給開始日以前12ヵ月間の月収を平均した額 ÷ 30日 × 2/3」
受給者が1日あたりにもらっている給与の約3分の2が、1日あたりの傷病手当金の支給金額となります。
支給期間中に、会社から給与の支払いがあった場合は、原則、傷病手当金は支給されません。
ただし、受け取った給与の額が傷病手当金の額より少ない場合は、差額が支給されます。
傷病手当の受給期間
同一の傷病に対して、令和2年7月2日以降に傷病手当金の受給を開始した方の受給期間は、受給を開始した日から通算して1年6ヵ月です。
例えば、傷病手当金を1年間受給したのちに病状が良くなり6ヵ月間仕事をし、そのあと病状が悪化して就労不可になった場合には、残りの6ヵ月間も傷病手当金を受給できます。
なお、受給開始日が令和2年7月1日以前の場合は、受給を開始した日から起算して1年6ヵ月間です。
傷病手当と関係のあるその他の給付金について
続いて、傷病手当金と関連する他の給付金を説明します。
ここでは、失業手当、出産手当、労災保険、別の病気やけがでの傷病手当金、および障害年金について詳しく解説します。
失業手当
傷病手当金と失業手当は同時に受給できません。
どちらを受給するのが得なのか判断するには、以下の計算式に基づいて、それぞれの支給額を比較しましょう。
【傷病手当金(日額)の計算式】
支給開始日以前12ヵ月間の月収を平均した額 ÷ 30日 × 2/3
【失業手当(日額)の計算式】
賃金日額 = 離職直前6ヵ月間の給与の合計(賞与を除く)÷ 180
基本手当日額 = 賃金日額 × 50~80%(60~64歳は45~80%)
なお、失業手当は受給開始時期を最長で3年間先延ばしできます。
したがって、傷病手当金受給中は失業手当の受給期間を延長し、傷病手当金の受給期間が終わってから失業手当を受給することができます。
出産手当
出産手当を受給している場合は、傷病手当金を受給できません。
出産手当は、「出産予定日前42日+産後56日+出産予定日から遅れた出産日までの日数」という期間が設けられており、その範囲内で会社を休んだ期間を対象として支給されます。
上記の期間は傷病手当が支給されませんが、傷病手当金の日額のほうが多い場合は、差額分を請求できます。
出産手当(日額)の計算方法は、以下のとおりです。
【出産手当(日額)の計算式】
支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 2/3
労災保険
すでに労災保険から休業補償給付を受給している場合は、傷病手当金が調整されます。
休業補償給付を受給している期間は、傷病手当金が支給されません。
ただし、傷病手当金の日額のほうが多い場合は、申請すればその差額分が支給されます。
そのため、傷病手当金の日額計算をしておくことをおすすめします。
【傷病手当金(日額)の計算式】
支給開始日以前12ヵ月間の月収を平均した額 ÷ 30日 × 2/3
別の病気やけがで受ける傷病手当
傷病手当金の受給中に、新たに別の病気やケガが原因で傷病手当金を受給する場合は、新たな傷病手当金に対し、1年6ヵ月間の給付期間が設定されます。
最初の傷病手当金との重複期間は、どちらか支給金額の多いほうのみ支払われるので、両方の受給はできません。
なお、前後の傷病に関連性があると判断された場合は、新たな傷病手当金に対し1年6ヵ月間の給付期間は設定されず、最初の傷病手当金のみ支給されます。
障害年金
傷病手当金と同一の傷病等により、厚生年金保険の障害厚生年金または障害手当金を受給している場合、傷病手当金は受給できません。
ただし、障害厚生年金の額(同時に障害受けられるときはその合計額)の360分の1が、傷病手当金の日額より低い場合は、差額が支給されます。
また、障害手当金を受給することとなった場合は、傷病手当金の額の合計が障害手当金の額に達するまで傷病手当金は支給されません。
障害年金の請求条件は以下のとおりです。
1. 初診日から1年6か月後(障害認定日)に障害年金の等級に該当した場合
2. 障害認定日(原則として初診日から1年6か月後)時点では障害状態が障害年金の等級に該当しないが、その後症状が悪化し、障害年金の等級に該当した場合(65歳以降は請求できません)
出典:傷病手当金を受給されている皆様・病気やけがで療養中の皆様へ
退職傷病手当金のよくある質問
ここでは、退職傷病手当金に関して、よくある3つの質問と、それに対する回答を紹介します。
傷病手当金を申請されるご予定のある方は、ぜひご参考にしてください。
自営業や個人事業主でも受給できますか?
自営業者や個人事業主が加入する国民健康保険では、傷病手当金は支給されません。
傷病手当金が支給されるのは「全国健康保険協会管掌健康保険」「組合管掌健康保険」の加入者だけです。
いわゆる会社員が加入する「健康保険」のことなので、国民健康保険の加入者は受給できません。
なお、勤務先の社会保険に加入できれば、パート・アルバイトでも傷病手当金を受給できます。
傷病手当金と傷病手当は違いますか?
「傷病手当金」と「傷病手当」と名前は似ていますが、これらはまったく異なる手当です。
支給元 | 制度の概要 | 支給期間や条件 | |
傷病手当金 | 健康保険 | 会社に所属している人が健康保険から手当金を受け取れる制度 | 在職中の、業務外の事由による病気やケガで療養中の場合に支給 |
傷病手当 | 雇用保険 | 失業・休職中の人が雇用保険から手当金を受け取れる制度 | 失業中に、病気やケガによって求職活動ができない場合に支給 |
退職後は傷病手当と失業保険のどちらをもらうと良いですか?
傷病手当金と失業保険は、条件によって受給額が異なります。
傷病手当金の日額と失業保険の日額をそれぞれ求め、金額が高いほうを受給することをおすすめします。
【傷病手当金(日額)】
支給開始日以前12ヵ月間の月収を平均した額 ÷ 30日 × (2/3)
【失業保険(日額)】
(退職前6ヵ月の賃金合計 ÷ 180)× 給付率
(例)
- 東京都在住
- 協会けんぽに12ヵ月以上加入
- 離職時の年齢は55歳
- 給与月額600,000円
【傷病手当金(日額)の計算式】
600,000円 ÷ 30日 × 2/3 = およそ13,333円
【失業保険(日額)】
3,600,000(600,000円 × 6ヵ月分)円 ÷ 180 = およそ20,000円
※45~59歳の場合は、賃金日額16,710円以上だと上限額になるため、基本手当日額は8,355円(2022年度)
この条件だと、傷病手当金は約13,333円、失業保険は8,355円です。
つまり、この方の場合は傷病手当金をもらったほうが得です。
なお、前述したとおり、失業手当は受給開始時期を最長で3年間先延ばしできます。
したがって、傷病手当金受給中は失業手当の受給期間を延長し、傷病手当金の受給期間が終わってから失業手当を受給することが可能です。
条件を満たせば退職後も傷病手当を受給できる
条件を満たせば、退職後も傷病手当金を受給できます。
まずは自分が条件を満たしているかどうかを確認し、必要な書類を用意しましょう。
同時に、他の給付金との関連や支給額の違いについても調査してみてください。
いつからどれくらいの金額を受給できるのか、具体的に知っておくことで不安が軽減できるでしょう。
退職後の金銭面の不安が軽減されることで、退職や転職にも踏み出しやすくなるのではないでしょうか。