雇用主が契約社員の解雇を検討するとき、気になるのが法律に抵触しないか、トラブルにならないか、ということです。
契約社員の権利は、労働基準法や労働契約法、民法などの法律で守られています。
法律に準拠し、相手が納得できる正当な解雇理由がなければ、不当解雇といわれかねません。
今回は、契約社員の解雇を検討するときに押さえておくべき法的根拠や、正当に解雇できるケースを詳しく解説します。
目次
契約社員の解雇を簡単にできない理由と法的根拠
契約社員の権利は、労働基準法や労働契約法、民法など、さまざまな法で規定されています。
したがって、法律に反しない正当な理由がなければ、契約社員の解雇は難しいと理解しましょう。契約社員を簡単に解雇できない理由と、法的根拠を以下で解説します。
なお、契約社員に辞めてもらうタイミングは、契約期間中と契約満了時の2パターンです。前者を「解雇」、後者を「雇い止め」といいます。本記事では、契約期間中の解雇を中心に解説しますが、契約社員に辞めてもらうときは雇い止めのほうがトラブルを抑えられます。
労働契約法に基づき契約社員を解雇するのは難しい
契約社員の解雇を検討するとき、気をつけなければならないのが違法解雇に該当するかどうかです。
労働契約法第16条では、客観的に見て合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない理由の解雇は無効と定められています。
つまり、契約社員を含めて労働者を解雇する場合、誰が見ても「解雇は正当」と思える理由が必要です。
契約期間中の解雇は基本的には不可
基本的に、契約期間が終了していない契約社員の解雇はできません。
労働契約法16条に加え、契約社員については同法第17条に次の定めがあります。
使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
つまり、契約期間中は雇用主が契約を継続する約束があり、契約途中の一方的な解雇は雇用主の約束反故とみなされ、不当解雇と判断される可能性が高くなります。
契約社員を解雇するには「やむを得ない事由」が必要であり、契約社員に問題があって解雇した場合でも、不当解雇とされた判例もあります。
契約期間中の契約社員の解雇は、真に「やむを得ない事由」がない限りできないと覚えておきましょう。
契約社員の契約期間中の解雇が認められた特例
契約期間中の解雇が難しい契約社員ですが、解雇が認められたケースもあります。
具体的な例を、以下でご紹介しましょう。
採用時に個人情報を詐称していた
契約社員が採用時に嘘の個人情報を伝えて契約していた場合に、契約途中の解雇が認められたケースです。
例えば、仕事上の理由で「満60歳未満」の採用基準を設けていた企業に対し、実年齢65歳の人が年齢を偽り契約社員になったケースです。
体力を要する仕事など一定年齢でないと仕事に支障をきたすことがある場合、年齢詐称を理由に途中解雇しても不当解雇とされる可能性は低いでしょう。
無断欠勤して副業をしていた
無断欠勤のうえ副業していた契約社員も、途中解雇が認められる可能性が高いでしょう。
連絡なしの欠勤は、仕事に重大な影響を及ぼす行為です。
さらに、無断欠勤して副業していた場合、契約社員の行為はより悪質であるといえるでしょう。
無断欠勤だけではなく、会社からの業務命令を無視したり勤務態度が極端に悪い場合も、その程度や頻度などによっては懲戒解雇が認められたケースがあります。
指導後もクライアントや従業員への暴力暴言をつづけた
クライアントや社内の従業員に対し、暴力行為や暴言を続ける契約社員に何度も厳重注意・指導を行い、それでも態度を改めない場合は、契約期間中の解雇が認められました。
ポイントは、雇用主が繰り返し指導している点と、それでも契約社員が態度を改めない点です。
雇用主が契約を続けられるよう何度も指導したにも関わらず、契約社員が指導を無視して態度を改めなかったことが「やむを得ない事由」と認められました。
契約社員の契約期間中の解雇が認められなかった事例
雇用主が正当だと考えていても、司法判断で解雇が認められなかったケースもあります。
具体的な事例を以下でご紹介しましょう。
職場内で暴力を振るったり暴言を吐いた
契約社員が職場内で暴力を振るったり、暴言で他の従業員を傷つけたりする行為は、一般的な視点で見ると許される行為とはいえず、解雇も可能だと考える人もいるでしょう。
しかし、裁判所は、雇用主側の状況改善努力が足りなかったことや暴力・暴言行動の原因が契約社員以外にもあったことを考慮して、懲戒解雇は無効としました。
単に契約社員が暴力を振るったり暴言を吐いただけでは、解雇までは認められないこともあります。
契約社員を解雇するには、雇用主が指導や配置換えなどの改善努力を行い、出勤停止や減給といった懲戒処を経ても改善が見られないなど、「やむを得ない事由」が必要です。
契約社員がうつ病で休んでいる
労働基準法第19条1項では、労働者が業務上の理由で負傷・病気になった場合、療養期間と治癒後30日間は、解雇してはいけないと定めています。
もし、契約社員のうつ病の原因が社内のハラスメントだった場合、労働基準法第19条1項により、該当期間中の解雇は認められません。
ただし、雇用主側にうつ病の原因がなく、症状が改善しなかったり、治る見込みがなく業務内容の変更も不可能な場合は、契約期間満了時に雇い止めしても問題ないでしょう。休業期間は無給で構いません。
契約社員を解雇する方法
契約社員の解雇は、次のポイントを押さえると不当解雇とはなりません。
- 契約期間中の解雇は、「やむを得ない事由」がある
- 契約満了時に適切な手続きを踏んで雇い止めにする
- 退職勧奨に合意してもらう
各項目を、以下で詳しく解説します。
解雇する「やむを得ない事由」がある【契約期間中の場合】
契約期間中の契約社員を解雇する場合は、「やむを得ない事由」が必要です。
「やむを得ない事由」がないのに解雇すると、労働契約法第17条に違反し不当解雇とみなされます。
例えば、無断欠勤や不正行為、悪質な犯罪行為、会社の経営不振にともなう人員整理などが該当します。
適切な手続きを踏んで雇い止めにする【契約満了時の雇い止めの場合】
契約満了時に新たな雇用契約を結ぶことなく契約終了(雇い止め)しても、原則不当解雇にはあたりません。
ただし、3回以上契約が更新されている場合や1年を超えて継続勤務している契約社員に対しては「雇い止めの予告」が必要です。契約が満了する日の30日以上前に、契約社員に再契約しないことを伝えなければなりません。
また、トラブル防止のために次の対応も検討してみましょう。
- 契約時、「契約は更新しない」ことを雇用契約書に記載し伝える
- 契約時、契約更新する場合の雇用契約書に記載し伝える
- 再契約することが確定していないときは、更新をほのめかす発言はしない
退職勧奨をして合意してもらう
雇用主が契約社員に退職勧奨し合意をえた場合、契約期間でも雇用契約を終了できます。
退職勧奨とは、「退職してもらえないか」「退職してほしい」と依頼することで、一方的な解雇とは異なります。
ただし、退職勧奨したからといって契約社員の同意がなければ、契約は解除できません。
契約社員の解雇についての注意点
契約社員の解雇では、次の点に注意しなければなりません。
- 契約社員の更新に関し雇用時に明確にしておく
- 契約社員へ解雇予告を30日以上前に行う
- 整理解雇で解雇せざるを得ない場合も必要性や回避努力を求められる
各項目を、以下で解説します。
契約社員の更新について雇用時に明確にしておく
契約社員と雇用契約を締結するときは、雇用時に更新に関する明確な基準を記載しておきましょう。
例えば、「遅刻回数が1ヵ月〇〇回以上の場合更新を行わない」「著しい業務命令無視を行った場合は契約更新しない」など、具体的な基準を明確に示しておくと、更新しない理由を納得してもらいやすくなります。
万が一トラブルになっても、雇用契約書が客観的な証拠となります。
契約社員へ解雇予告を30日以上前に行う
労働基準法第20条は、契約社員を含む労働者への解雇予告は、少なくても30日以上前に行わなければならないと定めています。
予告日が解雇する日から数えて30日に満たなかった場合、解雇予告手当として「1日の平均賃金×30日に満たなかった日数」の金額を支払わなければならないので注意しましょう。
整理解雇で解雇せざるをえない場合にも注意
会社が経営不振になり、人員整理で解雇せざるをえない場合もあります。整理解雇が認められれば不当解雇とはなりませんが、次の条件を満たす必要があります。
- 人員削減が必要である
- 解雇を回避する努力をする
- 整理解雇の対象者を客観的・合理的に選定する
- 社員への説明を十分に行う
上記の条件を満たさないで整理解雇すると、従業員から訴えられた場合は不当解雇と判断されると考えておきましょう。
契約社員を不当に解雇すると大きなトラブルに
契約社員の権利は、法律で守られています。
契約期間中の契約社員を「やむを得ない事由」なく解雇したり、適切な手続きを踏まずに雇い止めにすると、不当解雇とみなされトラブルに発展するでしょう。
違法行為だと判断されると、会社の社会的な信用をなくす、求人に支障をきたす、従業員のロイヤリティーが低下する、などの悪影響も懸念されます。難しい場合は法律の専門家に相談し、トラブルにならないよう注意しましょう。