今の職場を退職したいのに、引き止めにあっている方はいませんか。
あるいは、退職したい社員と引き止めたい上司がいて、両者の間で板挟みになっている方、そして引き止めにあっている方のご家族もいるのではないでしょうか。
本記事では退職の引き止めがなぜ違法なのかや、実際に引き止めにあったときの対処法について、あらゆるケースごとに解説します。
退職の引き止めに対する正しい知識や対処法を知ることで、不安や障壁が解消され、退職や転職に踏み出しやすくなるでしょう。
目次
退職の引き止めは違法
退職の引き止めは法律違反です。
では、どのような点が違法なのでしょうか。
また、退職の引き止めはパワーハラスメント(パワハラ)だと判断されるのでしょうか。
それらについて解説します。
職業選択の自由は権利として認められている
職業選択の自由について、日本国憲法22条第1項では以下のように規定されています。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
出典:日本国憲法 第22条
これは、職業選択の自由を保障しているものです。
つまり、退職を含む職業選択を自由に行うことは、憲法で保障されている権利であるということです。
したがって、退職を申し出たときに無理やり引き止めて会社を辞めさせないことは、違法行為にあたります。
パワハラと判断される
職場においてパワハラと判断される事例は、以下の3つの条件をすべて満たすものとされています。
- 役職などの優位性を利用している
- 業務の適正な範囲を超えて行われる
- 精神的あるいは身体的な苦痛を与える、または就業環境を悪化させている
損害賠償や懲戒処分といった言葉を使って脅された場合や、給料や退職金を減額された場合、また、有給休暇を取得させないように圧力をかけられた場合などは、パワハラに該当します。
退職時の引き止めにあう前に知っておきたい法律のポイント
退職時の引き止めにあう前に知っておきたい法律のポイントは、主に2つあります。
1つ目は、無期雇用なら2週間前に退職意思を伝えれば良いということです。
2つ目は、有期雇用でもやむを得ない場合には途中退職できることです。
これらについて解説します。
無期雇用なら2週間前に退職意思を伝えれば良い
無期雇用の解約について、民法627条1項では以下のように規定されています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
出典:民法 第627条
就業規則に「退職する際は1ヵ月前に告げること」などと記されている会社でも、民法が優先されるので2週間前に意思を告げれば退職できます。
ただ、マナーを重視するのであれば、可能な限り就業規則に従ったほうがベターでしょう。
有期雇用でもやむを得ない場合に途中退職できる
有期雇用の解約について、民法628条では以下のように規定されています。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
出典:民法 第628条
やむを得ない事由とは、病気やご家族の介護、出産、給料の未払い、違法性のある長時間労働などです。
これらの場合は、雇用期間内であっても希望により退職することができます。
また「その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるとき」とは、退職した人による加害、過失が原因である場合や、退職したことによって大きな損害が発生した場合などです。
このような場合に損害賠償が請求されることがあるので注意しましょう。
【ケース別】退職時の違法な引き止めを受けた際の対処法
退職時の違法な引き止めを受けた際はどのように対処すれば良いのでしょうか。
違法な引き止めとは、以下のようなケースが考えられます。
- 新しい人が入るまで辞めさせてくれない
- 有給消化は認めない
- 退職届を受け付けない
- 損害賠償を請求する
- 懲戒処分として解雇する
これらの対処法を解説します。
新しい人が入るまで辞めさせてくれない
退職希望者に対し、新しい人が入社するまで辞めさせないことは違法です。
労働者の退職はいつでも起こりうることであり、後任が見つからないのは会社の都合にすぎません。
「後任者が見つかるまで辞めないでほしい」というのは会社の希望でしかないので、法的な強制力はないのです。
前述したとおり、労働者は2週間前までに退職の意思を告げることで、理由に関わらず退職することができます。
有給消化は認めない
退職者の有給消化を認めないことは違法です。
有休休暇について、労働基準法第39条では以下のように規定されています。
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
出典:労働基準法 第39条
退職の意思を告げたとしても有給取得の権利は消えないので、どれだけ有休を消化したうえで退職するかは労働者の自由となります。
退職届を受け付けない
退職届を受け付けずに、働かせ続けることは違法です。
前述したとおり、労働契約に期間の定めがない場合は、労働者が退職の意思を告げてから2週間後に退職が成立します。
会社に退職届を受理してもらえない場合は、メールへの添付や内容証明郵便など、日付が確認できる形式で会社宛てに退職届を提出することをおすすめします。
損害賠償を請求する
会社は退職者に対し、基本的に「退職したこと自体に対する損害賠償の請求」はできません。
損害賠償請求をするためには、違法な権利侵害行為があったという事実が必要です。
任意の退職は法律で認められている労働者の権利なので、「違法な権利侵害行為」には該当しません。
よって、労働者が退職することのみにより損害賠償責任を負わされることはありません。
懲戒処分として解雇する
退職希望者を懲戒処分として解雇することは違法です。
懲戒解雇について、労働契約法15条・16条では以下のように規定されています。
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
具体的には、ハラスメント、横領、機密漏洩、採用判断に影響を与える経歴詐称などがない限り、懲戒解雇は認められません。
単に退職を申し出たのみでは、懲戒処分には該当しないのです。
退職時の違法な引き止めは専門家に相談できる
退職時の違法な引き止めは、専門家に相談できます。
退職は法的に問題ない場合が多く、基本的にはそのまま退職を進めても大丈夫ですが、トラブルになりそうで悩んでいる方は、迷わず専門家に相談しましょう。
例えば、厚生労働省では全国に総合労働相談コーナーを設けており、さまざまな労働問題の相談などができます。
また、社会保険労務士に相談できる総合労働相談所もあります。
法的トラブルが心配な場合は、法テラスに相談することも可能です。
退職の引き止めは違法であることを理解しよう
退職の希望に応じないことや引き止める行為は違法です。
まずはそのことを理解しましょう。
不当な要求をされたり、支払われるべき報酬が受け取れなかったりすることで、自分自身やご家族に、金銭的、精神的負担がかかってしまいます。
引き止めにあったときは、上記のケース別の対処法をもとに、会社にかけ合ってみましょう。
それでも引き止めがなくならないときは、専門家に相談することも必要です。
引き止めがなくなることで、退職や転職に踏み出しやすくなるでしょう。