「決まった曜日・時間だけ働きたい」「私生活も大切にしたい」といった希望があるとき、パート・アルバイトや契約社員などの雇用形態を検討する方は多いでしょう。
しかし、正社員と比べて柔軟な働き方ができる一方で、こうした雇用形態は待遇面に不安を感じるという声もあります。
そこで制定されたのが、パートタイム・有期雇用労働法です。
本記事では、パートタイム・有期雇用労働法の内容と改正後のポイントを詳しく解説します。
短時間勤務で働く方の環境が現在どのようになっているのか、理解を深めておきましょう。
目次
パートタイム・有期雇用労働法とは?
パートタイム・有期雇用労働法は、短時間労働者の労働条件や福利厚生改善を目的として、1993年に制定された法律です。
働き方の多様化に合わせて、正社員との賃金面・待遇面の差がなくなるよう改正されています。
パートタイム・有期雇用労働法の適用対象者は、短時間労働であっても不合理な格差なく働くことが可能です。
パートタイム・有期雇用労働法で保証される内容と適用対象を、以下で詳しく解説します。
パートタイム・有期雇用労働法で保証される内容
パートタイム・有期雇用労働法で保証される内容は、以下のとおりです。
- 雇用者は、パートタイム労働者の労働条件や昇給・賞与・退職手当の有無を文書化し、事前に交付しなければならない
- 雇用者がパートタイム労働者の就業規則を作成または変更するときは、自社に勤務するパートタイム労働者の過半数から代表と認められた人の意見を考慮しなければならない
- 雇用者は、パートタイム労働者の業務内容・能力・経験などをふまえ、賃金・福利厚生・社員教育の面で正社員と均衡の取れた待遇確保の努力をしなければならない
- 雇用者は、パートタイム労働者から正社員への転換措置(正社員登用試験や募集の告知など)を行わなければならない
- 採用後のパートタイム労働者が、雇用者の行う措置や待遇を決定した理由について説明を求めたとき、雇用者はこれに応じなければならない
- 常に10人以上のパートタイム労働者を雇用している雇用者は、管理者を選任しなければならない
- 雇用者は、パートタイム労働者からの相談に対応できる体制を整え、紛争の自主解決努力をしなければならない
パートタイム・有期雇用労働法が適用される対象
パートタイム・有期雇用労働法が適用されるのは、パートタイムとして働く方だけではありません。
法律では、同一の事業所内で正規雇用された従業員(正社員)より、1週間の所定労働時間が短い従業員すべてがパートタイム労働に該当します。
つまり、正規雇用者よりも短い労働時間で働く人は、パート・アルバイトや契約社員、派遣社員といった雇用形態に関係なく、パートタイム・有期雇用労働法の適用対象です。
パートタイム・有期雇用労働法改正の3つのポイント
パートタイムで働く人は、年々増加傾向にあります。
それにともない、パートタイム・有期雇用労働法も改正を繰り返してきました。
そして2018年の働き方改善関連法交付にともない、2020年にパートタイム・有期雇用労働法に名称が変更されています。
2020年のパートタイム・有期雇用労働法改定で注目したいポイントは、次の3つです。
- 不合理な待遇差を禁止
- 待遇格差の説明を求めやすくなった
- 行政の無料紛争解決援助制度が非公開で利用できる
以下で詳しく解説します。
不合理な待遇差を禁止
改正後のパートタイム・有期雇用労働法では、正規雇用者(正社員)とパートタイム労働者の非合理的な待遇差を禁止しています。
根底にあるのは「同一労働同一賃金」というルールです。
「雇用形態に関わらず、同じ業務を行っているなら同じ待遇をするべき」という理念のもと、パートタイム・有期雇用労働法では明らかに不合理と判断される待遇差の禁止を明文化しています。
不合理な待遇差とは?
不合理な待遇差とは、同一労働同一賃金の考えと照らし合わせたとき、正社員とパートタイム労働者で、合理的とはいえない待遇差があるケースです。
例えば、正社員とパートタイム労働者が一緒に日帰り出張へ行ったとき、正社員だけに出張手当がつくのは不合理な待遇差があると考えられます。
不合理な待遇差の禁止に関する指針は、以下のとおりです。
不合理な待遇差の該当例 | 内容 |
---|---|
基本給 | ・基本給は、労働者の能力や成果、勤続年数などに応じて支払われるべきもの ・したがって、パートタイム労働者と正規雇用者が同一条件を満たしているなら同一の、違いがあるならそれぞれに応じた金額を支払わなければならない |
賞与 | ・賞与は、勤務先への貢献度に応じて支払われるべきもの ・したがって、パートタイム労働者と正規雇用者の貢献度が同等なら同一の、違いがあるならそれぞれに応じた金額を支払わなければならない |
各種手当 | ・各種手当は、労働者の役職や業務内容・状況に応じて支払われるべきもの ・したがって、パートタイム労働者と正規雇用者が同じ役職なら同一の役職手当を、状況に応じて発生する手当(残業手当や出張手当など)も条件が同じなら同額の各種手当を支払わなければならない |
パートタイムの有給休暇は?
同一労働同一賃金のルールに基づくと、有給休暇の有無も待遇差をなくすべき対象です。
例えば同一事業所で、同じ勤続年数の正社員とパートタイム労働者がいるとします。
正社員は勤続年数に応じた有給休暇が取得できるのに、パートタイム労働者が取得できない状況は、不合理な待遇差と判断されるでしょう。
パートタイム・有期雇用労働者でも、条件を満たしているなら有給休暇が与えられます。
パートタイムの有給休暇に関しては、以下のページもご参照ください。
待遇格差の説明を求めやすくなった
パートタイム・有期雇用労働法の改正にともない、雇用者はパートタイム労働者から待遇差の理由を求められたら、説明しなければならなくなりました。
これが雇用者の説明義務です。
つまり、不合理な理由で待遇格差が生まれていた場合、雇用者が合理的な説明をできないのであれば改善を求められます。
法律で定められているため、説明を求めたことを理由に不当解雇もされません。
労働条件に対して説明を求めやすく、不当解雇のリスクもないのは、パートタイム労働者にとっての安心材料といえるでしょう。
行政の無料紛争解決援助制度が非公開で利用できる
パートタイム・有期雇用労働法の改正後は、労使間の紛争解決にあたって、無料・非公開で援助を受けられる制度も利用可能になりました。
もしパートタイム労働者が雇用主である企業とトラブルになっても、各都道府県の労働局へ申し出れば、無料・非公開で解決の手助けをしてもらえます。
正当な権利を主張するにあたり、経済的な負担なく頼れる相談先として心強い存在となるでしょう。
2023年のパートタイム・有期雇用労働法の改正はどうなる?
2023年4月、労働基準法をはじめとする労務関連の法改正で以下のような変更がされました。
- 時間外労働の割増賃金率が50%になる
- デジタルマネーでの賃金支払いが可能になる
- 2024年以降、建設業・自動車運送業などの業種についての時間外労働の上限規制が始まる
これらの変更点は、パートタイム労働者にも影響を与えるでしょう。
時間外労働の割増賃金率が上がったり、時間外労働の規制が始まったりすると、勤務先の就業規則や雇用条件が変更になる可能性があります。
デジタルマネーの支払いを導入する企業では、賃金の受け取り方が変わるかもしれません。
パートタイムで働いている方は、労働条件や就業規則、賃金の支払い方法に変更がないかチェックしておきましょう。
パートタイム・有期雇用労働法を理解して働く不安を解消しよう
パートタイム・有期雇用労働法は、正社員との待遇格差を改善し、パートタイム労働者の正当な権利を守ってくれる法律です。
待遇格差に疑問を感じたときには、雇用者への説明・改善要求が同法律で認められています。
万が一トラブルになっても、各都道府県の労働局へ相談すれば無料・非公開で紛争解決の手助けをしてもらうことも可能です。
パートタイム労働法を知ることで、どのような雇用形態であっても安心して働ける環境を諦めずに済むでしょう。