退職金を受け取るとどのような税金がかかり、どのような手続きが必要なのでしょうか。
この記事では、退職金にかかる税金の種類や、受け取り方別の計算方法、税金のシミュレーション、税金に関する申告、退職金に税金がかからないケースについて解説します。
退職金の受け取りを予定している人や、すでに退職金を受け取った方は参考にしてください。
目次
退職金にかかる税金は住民税・所得税・復興特別所得税
退職金にかかるのは、所得税と住民税、復興特別所得税です。
それぞれの税金の概要は、次のとおりです。
- 所得税:個人の所得に対してかかる税金
- 住民税:都道府県や市町村がする行政サービスをまかなうための税金
- 復興特別所得税:東日本大震災の復興のために必要な財源を確保するための税金
住民税は原則、前年の所得に対して課税されます。
しかし、退職金の場合は例外で、退職金を受け取った年に課税されます。
退職金は受け取り方によって税金が異なる
退職金の受け取り方は、一時金として受け取る方法と、年金で受け取る方法の2種類があります。
企業によっては、受け取り方を自身で選択することも可能です。
受け取り方によってかかる税金が異なるため、それぞれの受け取り方の概要や、メリット・デメリットを把握しておきましょう。
一時金で受け取る場合
退職金一時金として受け取る場合、退職所得として扱われ、所得税と住民税、復興特別所得税がかかります。
また、一時金で受け取るのであれば退職所得控除というメリットが大きい税制優遇を受けられるため、税負担が軽くなるのが特徴です。
ただし、まとまったお金が一度に手に入るため、浪費やリスクが高い金融商品への投資には注意しましょう。
年金で受け取る場合
退職金は年金で受け取ることも可能です。
年金で受け取った場合は雑所得として扱われ、所得税と住民税、復興特別所得税がかかります。
年金で受け取るメリットは、一時金よりも受取金額の総額が多くなる可能性が高いことです。
退職金の運用益が上乗せされて支給されるからです。
また、年金で受け取ることでお金を使いすぎるリスクを減らせる点もメリットといえるでしょう。
一方で、年金で受け取る場合は、一括で受けとるよりも税金が高額になりやすいのがデメリットです。
【受け取り方別】退職金にかかる税金の計算方法
退職金を一時金で受け取った場合と、年金で受け取った場合、それぞれにかかる税金の計算方法を解説します。
一時金で受け取る場合の計算
退職金を一時金で受け取る場合、税金がかかる課税所得は次のように計算します。
退職所得の金額=(退職金額−退職所得控除額※)×1/2
※退職所得控除額
勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
(80万円未満の場合は80万円)
勤続年数20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
退職所得の金額が計算できたら、所得に応じた税率を使用して所得税を計算します。
所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円~3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円~6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円~8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円~17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
復興特別所得税は、所得税額から「所得税額から差し引かれる金額」である税額控除を差し引いた金額に、2.1%をかけた金額です。
住民税は、次の計算式で計算します。
所得割(所得×10%)+均等割(5,000円程度)
年金で受け取る場合の計算
退職金を年金で受け取る場合は雑所得となります。
計算方法は、下記の表のとおりです。
公的年金等に係る雑所得の速算表
年金を受け取る人の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
65歳未満 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超 130万円未満 | 収入金額の合計額-60万円 | |
130万円以上 410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75-27万5千円 | |
410万円以上 770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85-68万5千円 | |
770万円以上 1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95-145万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額-195万5千円 | |
65歳以上 | 110万円以下 | 0円 |
110万円超 330万円未満 | 収入金額の合計額-110万円 | |
330万円以上 410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75-27万5千円 | |
410万円以上 770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85-68万5千円 | |
770万円以上 1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95-145万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額-195万5千円 |
出典:No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁
※公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合
なお、年金で受け取る退職金のほか、公的年金があれば合算して計算します。
一括で受け取った退職金の税金シミュレーション
退職金を一括で受け取った場合、具体的にどれくらいの税金がかかるのでしょうか。
2通りのシミュレーションをしてみましょう。
勤続年数10年3ヵ月、退職金1,000万円の場合
勤続年数10年3ヵ月、退職金1,000万円の場合の所得税、復興特別所得税、住民税を計算します。
所得税
退職所得控除額を計算する際の勤続年数は、1年未満の端数がある場合は1年に繰り上げて計算するため、次のように計算します。
退職所得控除額=40万円×11年=440万円
したがって、退職所得金額は、次のとおりです。
続いて、所得税を計算します。
280万円×10%-97,500円=182,500円
所得税は、182,500円です。
復興特別所得税
復興特別所得税の計算式は、次のとおりです。
182,500円×2.1%=3,832円
(小数点以下切り捨て)
復興特別所得税は、3,832円です。
住民税
均等割を5,000円として、住民税を計算します。
住民税=(280万円×10%)+5,000円=285,000円
(小数点以下切り捨て)
住民税は、285,000円です。
最後に、所得税と復興特別所得税、住民税を合計します。
182,500円+3,832円+285,000円=471,332円
所得税と復興特別所得税、住民税の合計額は、471,332円です。
勤続年数25年8ヵ月、退職金2,500万円の場合
勤続年数25年8ヵ月、退職金2,500万円の場合の所得税、復興特別所得税、住民税を計算します。
所得税
退職所得控除額を計算する際の勤続年数は、1年未満の端数がある場合は1年に繰り上げて計算するため、次のように計算します。
退職所得控除額=800万円+70万円×(26年−20年)=1,220万円
したがって、退職所得金額は、次のとおりです。
退職所得の金額=(2,500万円−1,220万円)×1/2=640万円
続いて、所得税を計算します。
640万円×20%-427,500円=852,500円
所得税は、852,500円です。
復興特別所得税
復興特別所得税の計算式は、次のとおりです。
852,500円×2.1%=17,902円
(小数点以下切り捨て)
復興特別所得税は、17,902円です。
住民税
均等割を5,000円として、住民税を計算します。
住民税=(640万円×10%)+5,000円=645,000円
住民税は、645,000円です。
最後に、所得税と復興特別所得税、住民税を合計します。
852,500円+17,902円+645,000円=1,515,402円
所得税と復興特別所得税、住民税の合計額は、1,515,402円です。
退職金を受け取ったら税金に関する申告も忘れずに
退職金を受け取ったら、退職所得申告書を提出するか、確定申告をする必要があります。
退職所得申告書とは、退職金を受け取る人が支払う側に提出することで、退職金にかかる税金が正しく計算される書類です。
退職所得申告書を提出していない場合は、確定申告をする必要があります。
退職所得申告書を勤務先に提出しておけば確定申告は必要ないので、忘れずに提出するようにしましょう。
退職金の税金がかからないケースとは
退職金の金額によっては、所得税がかからない場合があります。
所得税がかからないのは、「退職金-退職所得控除額」が0円になるときです。
具体的な金額は、次のとおりです。
勤続年数 | 退職金に所得税がかからない金額の上限 |
2年 | 80万円 |
5年 | 200万円 |
10年 | 400万円 |
15年 | 600万円 |
20年 | 800万円 |
退職金をもらったら、税金がかかるのかを計算しておきましょう。
退職金にかかる税金を知り、受け取り方を事前に考えておこう
退職金には一時金と年金の2通りの受け取り方があり、それぞれメリットやデメリットがあります。
税金の計算方法も異なるため、あらかじめ計算方法を把握しておき、どちらの受け取り方を選択するか考えておきましょう。
退職金を受け取ったら、退職所得申告書の提出または確定申告を忘れずに行い、正しい金額の税金を支払ってください。