
パートの採用時にも試用期間を設けている企業もあります。
パートの試用期間の長さや本採用との違いについて、知りたい方も多いのではないでしょうか。
この記事では、パートの試用期間の実態や、企業と労働者双方のメリット、注意点などを詳しく解説します。
目次
パートにも試用期間が設けられることはある
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「従業員の採用と退職に関する実態調査」によると、採用した従業員に試用期間を設けている企業は86.9%にも上っており、多くの企業が試用期間を取り入れていることがわかります。
こちらは正社員のデータですが、就業規則でパートにも試用期間を設けている企業もあります。
そもそも試用期間とは、企業が採用した従業員の能力や資質を見極めるために設ける期間のことです。
一般的に、試用期間が終了して、お互いに問題がなければ本採用となります。
履歴書や面接だけでは企業が応募者の適性を把握するのは難しく、また採用される側も、入ってから仕事内容や待遇の相違に気付くリスクがあります。
上記の問題を解決するための手段として、試用期間は企業と従業員にとって必要といえるでしょう。
パートの試用期間は1ヵ月~3ヵ月が目安
企業により設定期間は異なりますが、パートの試用期間の目安は1ヵ月~3ヵ月程度が一般的です。
場合によっては6ヵ月と長期の試用期間を設けているところもあります。
試用期間の長さに関して法的な定めはないものの、各企業が雇用契約書や就業規則で独自に設定しています。
企業によって試用期間は異なりますので、求人応募する際に必ず確認するようにしましょう。
パートの試用期間と本採用の違い
試用期間と本採用では、給与が異なる場合があります。
時給が本採用時よりも低く設定されるケースもありますが、基本的には最低賃金を下回ってはいけません。
ただし、都道府県労働局長から最低賃金の減額許可が下りれば、20%まで減額が可能です。
また、本採用時に比べて解雇されやすい傾向にありますが、不当な解雇は法に触れる可能性があります。
社会保険に関しては、試用期間でも加入できるので本採用時と基本的に変わりません。
パートに試用期間を設けるメリット
パートに試用期間を設けることには、企業側とパート労働者側の双方にメリットがあります。
それぞれの視点から見ていきましょう。
企業側のメリット
試用期間を設けることで、企業側には以下のようなメリットがあります。
従業員の適性を確認できる
試用期間を設けると、企業はパート従業員の実際の能力や職場への適性を、直接確認できます。
実際の仕事ぶりを通して、応募者の履歴書や面接だけではわからない点を見極められるのです。
例えば、業務に必要なスキル・仕事に対する姿勢・コミュニケーション能力などを見て、本採用をするかどうかを判断できるのは大きなメリットといえます。
企業が求める人物像とのギャップがある場合でも、継続して働いてもらうかどうかを判断する機会となるため、早い段階で採用のミスマッチを回避できるでしょう。
本採用後の人材配置や業務分担の判断材料が得られる
試用期間中の仕事ぶりを観察することで、本採用後に適材適所の配属ができるほか、役割分担も判断しやすくなります。
例えば、コミュニケーション能力の高いパート従業員には顧客対応を任せたり、数字に強い従業員に経理事務を任せたりといった判断です。
また、苦手な分野を把握して早期に適切なトレーニングや指導を行うこともできます。
試用期間に得た情報に基づいて適切な配置や指導を行うことで、職場の生産性向上にもつながる可能性があります。
パート労働者側のメリット
一方、パート労働者側にも試用期間のメリットがあります。
以下の2点が挙げられます。
職場環境・業務内容が自分に合っているか確認できる
試用期間は、労働者側にとって職場環境や業務内容が自分に合っているかを確認する良い機会となります。
例えば、職場の雰囲気や人間関係、仕事の内容が自分の希望やスキルとマッチしているかを見極めることが可能です。
試用期間中にイメージと違うと感じた場合には、改善を求めたり他の仕事を探したりといった判断ができるでしょう。
労働条件が守られているかを確認できる
試用期間は、企業が提示した労働条件が守られているかを確認するタイミングでもあります。
例えば、以下のようなチェックが可能です。
- 書面に記載されている給与が支払われているか
- 労働時間が守られているか
- 適切に社会保険の加入手続きが行われているか など
問題や要望がある場合は、必要に応じて雇用側に希望を伝えることで、より働きやすい環境となる可能性があります。
パートの試用期間中に企業がチェックすべきポイント
企業がパートの試用期間中にチェックすべき主なポイントは、次のとおりです。
- 仕事に対する姿勢
- 勤務態度
- コミュニケーション能力
- 職場の雰囲気や業務内容への適応性
- 得意分野
- 提出書類の記載内容との整合性 など
例えば、責任感や積極性があるかや、出勤時間を厳守できるか、既存の従業員との意思疎通に問題がないかなどは、本採用をジャッジするうえでのポイントとなります。
また、業務内容との相性や得意分野などは、本採用後の人材配置や教育内容に役立つ可能性もあるでしょう。
上記の点をチェックすることで、本採用後の早期離職やトラブルを未然に防ぎやすくなるのです。
パートの試用期間を設ける際の注意点
パートの試用期間を設ける際は、いくつかの注意点があります。
押さえておくべきポイントを見ていきましょう。
期間を明確に設定する
パートの試用期間を設ける際は、期間を明確に設定し、本人に書面で通知する必要があります。
また、試用期間の労働条件が本採用時と異なる場合は、それぞれの労働条件の説明が必要です。
例えば、以下のような内容を明確に通知する必要があります。
- 試用期間中は本採用時より給与が低くなる
- 労働時間が短くなる
- 本採用時は夜勤があるが試用期間中は日勤のみ など
先述のとおり、試用期間の長さに関して法的な定めはありませんが、1ヵ月~3ヵ月程度、長くても6ヵ月程度が一般的です。
試用期間が延長される可能性がある旨を就業規則に明記しておくことも、トラブルを回避するために大切でしょう。
試用期間中も最低賃金法を遵守する
原則として、試用期間中であっても従業員に支払う給与が最低賃金を下回ってはいけません。
ただし、都道府県労働局長に許可申請を行い、減額が許可された場合には20%を上限として減額できます。
減額できる期間は最長6ヵ月で、減額する旨を書面で明示したうえで合意が必要です(労働基準法 第十五条 労働条件の明示)。
試用期間のパートも社会保険の加入対象である
試用期間中のパート従業員も、一定の条件を満たせば社会保険に加入できます。
社会保険の加入対象は以下のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上
- 2ヵ月を超える雇用見込みがある
- 学生ではない
上記の条件を満たせば、試用期間中のパート従業員も加入の対象となります。
しかし、雇用主が法人ではない、あるいは従業員が5人未満の事業所である場合は、社会保険の加入義務がありません。
パートの試用期間に関するよくある質問
最後に、パートの試用期間に関してよく寄せられる質問について見ていきましょう。
パートの試用期間中に解雇や退職はできる?
試用期間中は、「解約権留保付雇用契約」を締結しているとみなされるため、通常よりも広い範囲での解雇が認められています。
ただし、解雇する場合は正当な理由が必要で、曖昧な理由や些細なことで解雇してはいけません。
例えば、何度指導しても同じミスを繰り返す、無断欠勤や遅刻を繰り返すなどの事実があり、企業側が指導や教育の措置を講じても改善の余地が見られない場合には、試用期間中の解雇が可能です。
試用期間中であっても、やむを得ない事情があれば労働者から退職を申し出ることは可能です。
しかし、労働者は原則として2週間前までに退職の意思を伝える必要があります(民法627条)。
会社と合意できれば、定められた期間よりも早く退職が可能です(民法628条)。
試用期間の延長は可能?
試用期間は、以下の場合に延長が認められます。
- 就業規則に試用期間の延長の可能性についての記載がある
- 延長する合理的な理由がある
- 延長の期間が適切である
- 労働者に上記の旨を説明している
例えば、病気やけがなどで勤務日数が少なく適性の判断ができていない場合などです。
延長期間の長さは、常識的で妥当な範囲内で行う必要があります。
パートが試用期間中に辞める場合の言い方は?
パートが試用期間中に辞める場合は、丁寧かつ誠実に伝えることが大切です。
「急で申し訳ありませんが、〇〇の理由により退職させていただきたい」といった表現で伝えましょう。
以下のような理由が挙げられます。
- 会社の雰囲気や業務内容が合わない
- 体調不良
- 家庭の事情 など
相手の合意が得られた場合には、「短い期間でしたが、貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました」などと感謝も伝えるとベターです。
退職の意向は、上司や担当者に直接伝えることが望ましく、できれば事前にアポイントを取って時間を設けてもらうのが良いでしょう。
パートも試用期間で職場とのすり合わせをしよう
パートに試用期間を設けることは、企業と労働者双方にとってさまざまなメリットがあります。
試用期間は通常1~3ヵ月が目安で、企業側は従業員の適性確認や本採用後の人事配置の判断材料として活用し、労働者側も職場環境や業務内容が自分に合っているかをチェックできます。
ただし、試用期間を設ける際はあらかじめ就業規則など書面に記載し、最低賃金の遵守や社会保険の加入などに気を付けなければなりません。
この記事で解説した内容を参考に、パート労働者の試用期間に関する正しい知識を身につけ、適切に運用していきましょう。