雇用形態には、大きく分けて正規雇用と非正規雇用があります。
- 正規雇用:
一般的にイメージする正社員のことで、週に5日、8時間程度働く雇用形態です。
雇用期間の定めがなく、定年まで働き続けることができます。 - 非正規雇用:
正規雇用以外の雇用形態です。
具体的には、契約社員・派遣労働者・パート・アルバイトなどが当てはまります。
転職や就職活動をしている人のなかには、非正規雇用という雇用形態を検討することもあるかもしれません。
しかし、非正規雇用にはさまざまな問題点があります。
それらの問題点を理解したうえで働き方を決めると良いでしょう。
目次
非正規雇用の問題点
非正規雇用では、雇用条件次第で働き方を決定できます。
そのため、会社に縛られない働き方ができる、自分のライフスタイルに合わせて仕事を調節できるなど複数のメリットがあります。
一方で、非正規雇用は将来性や安定性に対して不安を感じる人もいるでしょう。
ここでは、非正規雇用の問題点について見ていきましょう。
待遇の格差が生じやすい
会社は福利厚生の一環として、社員に対してボーナスや退職金制度をはじめ、食事手当や社宅の完備などさまざまな制度を整えている場合があります。
しかし、非正規雇用の社員は、これらの福利厚生制度の対象外となっていることがあります。
同じ会社で働いていても、雇用契約によって受けられる福利厚生や給与が異なり、待遇の格差を感じてしまうこともあるでしょう。
待遇格差の一例として、以下があります。
給与が少ない傾向にある
厚生労働省の報告によると、正社員の一般労働者の平均時給が1,976円であるのに対し、正社員以外の一般労働者では時給1,307円となっており、非正規雇用は時給単価が低い傾向です。
引用:図表1-3-24 正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移(雇用形態別・時給(実質)ベース)(厚生労働省)
また、月収で比較してみても、正規雇用の平均323,400円に対し、非正規雇用の平均216,700円と、およそ106,700円もの差があります(令和3年度時点)。
非正規雇用であっても正社員と同等の業務をしているのであれば、給与格差を不平等に感じてしまうかもしれません。
退職金やボーナスが貰えないことがある
厚生労働省の調査によると、退職金制度は80.5%(平成30年)の企業が設けていますが、有期雇用フルタイムの方を対象としている企業は、20%程度(令和3年)しかありません。
同様に、夏のボーナス支給制度は85.7%の企業が設けていますが、有期雇用フルタイムの方がボーナスに適応している企業の割合は、36.8%にとどまります。(令和3年)
非正規雇用と正規雇用の格差は「不合理な格差」であるとして、度々法廷にて議論がなされており、代表的な裁判として「メトロコマース事件」があります。
この事件では、最高裁にて非正規雇用の社員に退職金の支払いをしなくても「不合理な格差」ではないと判断されました。
スキルアップの機会が少ない
会社に勤めていると、セミナー受講やOJTなどスキルアップのために研修を受ける機会もあるでしょう。
このようなスキルアップのための研修も正規雇用の社員に対してのみ実施され、非正規雇用の社員に対しては実施していない企業もあります。
そのため、非正規雇用は実質的に新しい技術やスキル・知識を獲得するなどのスキルアップの機会が少ないといえます。
また、研修だけでなく、非正規雇用の場合は管理職への昇進もないのが一般的です。
スキルアップや昇進をめざしている場合は、正規雇用としての働き方を選んだほうが良いでしょう。
雇用が不安定である
正規雇用の場合は、労働契約法第16条に以下のように記載されており、簡単に従業員を解雇できないルールを定めています。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
一方で非正規雇用の場合は、雇用期間終了後に契約を更新しない雇止めに合う可能性があります。
政府の調査では、過去5年間に雇止めの経験がある人は3.4%と割合的には少ないですが、
「担当していた業務の終了」「景気要因などによる業務量の減少」「経営状況の悪化」などの会社の事情によって、仕事がなくなってしまう経済的な不安定さがあるのが現状です。
非正規雇用増加の社会的問題
引用:「非正規雇用」の現状と課題(厚生労働省)
非正規雇用の方の割合は年々増加しており、1999年は24.9%であったのに対し、2022年には約1.5倍の36.9%にもなっています。
先述したとおり、非正規雇用は時給単価が低い傾向にあるため、非正規雇用の増加は、働いても十分な収入が得られないワーキングプアの増加や正規雇用との経済格差の拡大、さらには失業への不安といった社会問題につながります。
また、会社にとっても、雇用期間に定めがある非正規雇用では長期的な人材育成が困難なため、非正規雇用の方が増加することで「会社の成長に貢献してくれる人材不足」「任せられる仕事が限定される」といった課題があるでしょう。
非正規雇用増加の理由は、こちらの記事で紹介しています。
非正規雇用問題解消へ向けた「同一労働同一賃金」
非正規雇用と正規雇用の格差を解消するため、政府は「同一労働同一賃金」ガイドラインを策定し、給与所得格差やその他待遇の格差の是正に努めています。
「同一労働同一賃金」ガイドラインとは、正規雇用と非正規雇用の待遇格差に対して、「不合理の格差」に当てはまるか否かという考え方を示しているものです。
基本給や賞与、手当などの賃金面だけでなく、福利厚生や教育の機会についても定めています。
このガイドラインは「パートタイム・有期雇用労働法」を基本としており、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から法律の施行が開始されました。
この法律では、正規雇用と非正規雇用の「不合理な待遇差」を禁止しており、社会として待遇格差の減少に動いているといえるでしょう。
非正規雇用として働く前に考えること
非正規雇用には複数の問題点もありますが、「育児や家事と両立しやすい」「ワークライフバランスが柔軟に保てる」などのメリットがあります。
非正規雇用のほうが良いのではないかと悩んでしまう人もいるでしょう。
非正規雇用で良いかどうか働き方を考える際には、特に以下の視点で考えてみましょう。
将来のキャリア形成
非正規雇用は、社内での自身のキャリア形成が難しい場合があります。
正規雇用の社員であれば昇進の可能性があり、後々課長や部長などの管理職、ひいては役員をめざすこともできます。
責任のある仕事を任されたり、仕事のやりがいも大きくなっていくかもしれません。
しかし、非正規雇用の場合は昇進の機会や研修などの教育の機会も少なく、社内での自身のキャリア形成には不利に傾いてしまうでしょう。
経済的自立の必要性
非正規雇用は給与が低くなる可能性があったり、会社の業績によっては契約を更新できないなどで仕事がなくなってしまう可能性があります。
ご家族を養う必要がある、子どもの養育費を継続的に支払う必要があるなど、安定的に経済的自立を達成しなければいけない人は、非正規雇用ではなく正規雇用で働くことを検討するべきでしょう。
経済的自立の程度は、その人のライフプランを左右します。
実際に、就労形態別に配偶者の有無の割合を例に挙げてみます。
雇用が安定している正社員の男性は30〜34歳時点で半数以上結婚しているのに対し、非正規雇用の場合は4人に1人程度しか結婚しておらず、大きな差となっていることがわかるでしょう。
今回の記事で紹介しきれなかった非正規雇用のメリット・デメリットについて、こちらの記事で紹介しています。
就職活動の際の参考にしてみてください。
非正規雇用の課題を踏まえて働き方を検討しよう
非正規雇用と正規雇用には待遇格差が見られます。
しかし、政府が示した「同一労働・同一賃金」などのガイドラインによって、処遇改善や正規雇用への転換などが社会全体で推進されています。
一方で、現在でも雇用の不安定さや給与の低さなど、非正規雇用のすべての問題がなくなったわけではありません。
そのため、非正規雇用で働くことを検討している場合は、転職を決定する前に給与や福利厚生などの待遇を把握しておくことをおすすめします。
それぞれのライフスタイルやニーズに合った働き方をめざして、転職活動をしていきましょう。