配偶者や親の扶養内でパート・アルバイトとして働く場合、いくらまで稼いで良いのか、扶養の範囲を超えてしまうとどうなるのかという疑問を抱く方もいるでしょう。
扶養の条件を知らずに収入を増やすと、結果として負担する税金も増え、手取り収入が減ってしまうかもしれません。
本記事では、扶養内で得られる収入の上限を解説したうえで、その上限を超えた場合の影響についても解説していきます。
目次
アルバイトを扶養内に収めるならいくらまで?
扶養内で働く場合、扶養者である配偶者や親などが利用できる所得控除の種類は以下の4つに分けられ、控除ごとに考慮すべき年収も異なります。
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 社会保険の扶養
以下では、それぞれの控除を受けるための要件や年収について解説します。
扶養控除を受けるなら103万円以下
扶養控除を利用し、配偶者や親などが所得税の優遇を受けながらアルバイトをするためには、年間の給与収入が103万円以下である必要があります。
扶養控除とは、納税者に扶養親族がいる場合、一定の金額の所得控除を受けられる制度です。
扶養親族は以下の4項目すべてを満たす人が対象となります。
(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。
(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
扶養控除の金額は、扶養親族の年齢や同居の有無により異なります。
区分 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
学生の場合は親の扶養内、結婚している場合は配偶者の扶養内で働くことが可能ですが、アルバイトによる収入が年間103万円を超えてしまうと扶養控除は適用されません。
扶養控除を受けるためには、月収8万5,000円程度を目安に労働時間や日数を調整しましょう。
配偶者控除を受ける場合も103万円以下
配偶者控除も年間給与収入が103万円以下である必要があるため、配偶者が控除を受けたい場合は月収8万5,000円程度に収めることを心がけましょう。
配偶者控除とは、納税者に所得の少ない配偶者がいる場合に利用できる制度です。
扶養控除と同様に、年間給与収入が103万円以下の場合控除が受けられます。
具体的な控除対象範囲は以下のとおりで、4項目すべてに当てはまる人が対象です。
(1)民法の規定による配偶者であること。(内縁関係の人は該当しません)
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
また、配偶者控除は扶養控除とは異なり、納税者の所得によって控除額が異なる点に注意しましょう。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者※ | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
出典:No.1191 配偶者控除|国税庁
※老人控除対象配偶者は、控除対象となる配偶者の年齢が、その年の12月31日の時点で70歳以上の場合に該当します。
表のとおり、納税者の年間所得の合計が900万円以下の場合は、扶養控除と同額の金額が控除されます。
配偶者特別控除を受けるなら150万円を意識
配偶者特別控除を満額(最高額)受ける場合は、年収150万円が一つのボーダーラインです。
配偶者特別控除とは、年間の給与収入が103万円を超え配偶者控除が適用されない場合でも、配偶者の所得金額によっては控除を受けられる制度です。
控除対象となる配偶者の所得が、給与収入から給与所得控除を差し引いて133万円以下、かつ納税者の所得が1,000万円以下の場合は控除の対象となります。
控除額と所得の詳細は、以下の表を参考にしてください。
上表より最大控除額38万円を受ける場合、配偶者の合計所得金額は95万円が上限であり、給与所得控除55万円を加味すると、最大控除を受けられる年収が150万円であることがわかります。
扶養控除を気にして年収を103万円以下に抑える人も多いですが、103万円を超えても配偶者特別控除を受けられるため、あまり労働時間に拘らずに働くという選択肢もあります。。
社会保険の扶養に入る場合は年106万円または130万円未満
所得税だけでなく社会保険の扶養に入る場合は、年収106万円または130万円未満であることが条件となります。
配偶者や親などの社会保険の扶養に入ることで、扶養者が加入している社会保険の保険給付を受けられます。
被扶養者の該当範囲は以下のとおりです。
1.被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
※これらの方は、必ずしも同居している必要はありません。
2.被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいます。
① 被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
② 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
③ ②の配偶者が亡くなった後における父母および子
※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、除きます。
出典:被扶養者とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
また、扶養者と同一世帯であるか否かによって被扶養者と認められる年収条件が異なるため、注意が必要です。
被扶養者と認定される年間収入条件 | |
---|---|
同一世帯 | 130万円未満かつ被保険者の年収の2分の1未満 |
同一世帯に属さない | 130万円未満かつ被保険者からの援助による収入額より少ない |
被扶養者と認定されるには、年間収入を130万円未満にする必要があるので、毎月の給与は108,333円以下に抑えなければなりません。
ただし、2022年10月の社会保険適用拡大により、厚生年金の被保険者数が101人以上の会社に勤務する人は、下記の条件すべてを満たしている場合、自身で社会保険に加入することが必須となりました。
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 所定内賃金が月額8.8万円以上である
- 学生でない
なお、2024年10月からは厚生年金の被保険者数が51人以上の会社に勤務する人も、上記条件に該当すれば社会保険加入が必須です。
アルバイトで扶養の範囲を超えるとどうなる?
扶養から外れる年収のボーダーラインを超えてしまった場合、配偶者や親の税額が上がるほか、自身で支払わなければならない税金や社会保険料も発生するため、負担が増加します。
それぞれの控除から外れた際にかかる税金を、詳しく見ていきましょう。
【103万円超】扶養控除などから外れて所得税がかかる
アルバイトの年間収入が103万円を超えると、扶養控除や配偶者控除などが親や配偶者に適用されなくなります。
そのため、親や配偶者の所得が増えることとなり、負担する所得税や住民税が高くなります。
ただし、配偶者の場合は、年収が103万円を超えても一定額までならば配偶者特別控除を利用できるため、完全に控除の適用外となるわけではありません。
また、収入金額が103万円を超えると、給与所得控除55万円と基礎控除48万円を差し引いても所得が発生するため、自分自身にも所得税がかかるようになります。
103万円を超えると扶養している側だけでなく、自分自身に税負担が発生するため、気をつけましょう。
【106万円超】アルバイト先で社会保険に入る可能性がある
年収が106万円を超えた場合は、社会保険の扶養から外れ、アルバイト先で社会保険への加入義務が発生する可能性があります。
年収要件以外にも、先述した社会保険の被保険者数101人以上の企業で働いている人が以下の3項目に当てはまる場合は社会保険の加入対象者となるため、勤務先の規模や労働時間などを確認しておきましょう。
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 所定内賃金が月額8.8万円以上である
- 学生でない
なお、上記の条件に該当しない場合でも年収103万円以上になれば、親や配偶者に扶養控除や配偶者控除は適用されなくなり、本人の所得税も発生します。。
【130万円超】誰でも社会保険に入る必要がある
年収が130万円を超えた場合は、自分で社会保険へ加入する必要があります。
したがって、配偶者や親族の社会保険の扶養に入ることはできません。
【150万円超】配偶者特別控除が満額もらえない
年収が150万円を超えると、配偶者特別控除が満額(最高額の38万円)が受けられなくなります。
配偶者特別控除は配偶者の合計所得と給与所得控除を加味して、48万円超95万円以下の際に満額38万円を受け取れる控除です。
合計所得金額95万円は給与所得控除を加えると年収150万円です。年収が150万円を超えると徐々に控除額が下がります。
また、控除額は納税者本人の所得も影響するため、納税者の所得が高いとさらに控除額が少なくなるケースもあります。
【201万円超】すべての控除の適用がなくなる
年収が201万円を超える場合は、配偶者特別控除が適用されません。
配偶者特別控除は、給与所得控除を加味した合計所得が133万円以下まで利用できる制度です。
給与所得が年間201万円を超える場合は、給与所得控除の約68万3,000円を加味しても133万円を超えるため、配偶者特別控除は利用できません。
扶養に入るメリットは、以下の記事をご参照ください。
アルバイトの扶養に関するよくある疑問
これまで、扶養内でアルバイトとして働く際に受けられる控除や年収の壁など、基本的な条件を解説してきました。
ここからは、より理解を深めるべく、アルバイトの扶養に関して挙げられる3つの疑問に回答していきます。
扶養内はいつからいつまでの年収?
扶養控除や配偶者控除の対象になるかどうかは、その年の1月1日から12月31日までの所得で判断されます。
ただし、社会保険は前年の年収を指している場合や、直近の月額をもとに算定するケースもあるため、勤務先に確認しましょう。
扶養を1ヵ月だけオーバーした場合はどうなる?
1ヵ月だけ、収入が扶養の対象となる金額の12分の1を超えてしまったとしても、扶養から外れることは基本的にありません。
ただし、社会保険の場合は年収だけでなく月収も基準に判断されるため、年間収入が130万円未満であっても月額が108,334円以上あるケースでは、親や配偶者の社会保険が取り消しになる可能性もあります。
特に、3ヵ月連続で月額108,334円を超えた場合、翌月から認定取り消しとなるため注意が必要です。
社会保険の扶養に入った状態を維持したいのであれば、なるべく上限を超えないように意識しましょう。
学生の場合でも扶養の範囲は変わらない?
学生の場合でも扶養の範囲は基本的に変わりませんが、社会保険は例外です。
先にも記載のとおり、社会保険の被保険者数101人以上の企業で働いている人が以下の条件を満たす場合、加入義務が発生します。
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 所定内賃金が月額8.8万円以上である
- 学生でない
学生は上記条件を満たさないので、106万円を超えた場合でも社会保険への加入は不要です。
ただし、学生のなかでも次に掲げる方は被保険者となります。
- 卒業見込証明書を有し、卒業前に就職しており、卒業後も同じ勤務先で就労予定である
- 休学中である
- 夜間学生
なお、社会保険以外の扶養控除などの決まりは学生にも適用されることを念頭に置きましょう。
アルバイトの「扶養内」の種類・条件を正しく理解して働こう
扶養控除や配偶者控除を受けたい場合は、年収103万円以内に収めましょう。また、収入が103万円を超えると所得税がかかります。
社会保険の扶養は、勤務先の事業規模などによって106万円もしくは130万円とボーダーラインが異なるので、各自の確認が必要です。厚生年金保険料や健康保険料を自分で支払わないといけないため、手取り収入が減ることもあります。
なお、年収が201万円を超えると、完全に扶養から外れることとなるため注意しましょう。
扶養内でアルバイトをする際は、控除の種類や条件を正しく理解したうえで働くことをおすすめします。