雇用契約書とは、雇用条件を明示したうえで、労働者と企業が双方合意のもとで締結する契約書のことです。
雇用契約書を作成すると、労働者を保護したり、労働条件に関するトラブルを未然に防いだりできます。
本記事では、雇用契約書を作成する予定の方に向けて、雇用契約書を作成する意味や効力、労働条件通知書との違い、記載すべき内容をまとめました。
作成する際のポイントや雇用形態別の注意点なども解説しているため、はじめて雇用契約書を作成する方は参考にしてみてください。
目次
雇用契約書とは
雇用契約書とは、労働者と企業が取り交わす労働条件などが記載された契約書のことです。
雇用契約書を作成する意味と効力、労働条件通知書との違いを解説します。
雇用契約書を作成する意味と効力
雇用契約書には契約期間や業務内容、給料などの労働条件が記載されており、労働者と企業が双方合意のもと署名・捺印をします。
書面に残すことで労働者を保護し、労働条件をめぐるトラブルを防ぐことも、雇用契約書の役割の一つです。
双方の合意があれば口頭で契約でき、法的な作成義務もありません。
しかし、労働条件を書面に残すことで「言った」「言っていない」の争いを防ぐことができます。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
労働基準法では、労働契約を締結した際に、労働条件を明示した書面を交付することが義務付けられています。
労働条件の通知を目的としているため、労働者の署名は必要ありません。
これが一般的に労働条件通知書と呼ばれるものです。
一方、雇用契約書は法的に定められた作成義務はありません。
雇用契約書は労働者と企業の合意を示す書面であり、労働者の保護とトラブル防止を目的に作成します。
また、交付義務のある労働条件を明示した書面は、「労働条件通知書」である必要はありません。
雇用契約書のなかに労働条件通知書の事項を含めて、両者の役割を兼ねることも可能です。
雇用契約書に記載すべき内容
雇用契約書には記載すべき絶対的記載事項と、必要に応じて記載する相対的記載事項があります。
それぞれ詳細を見てみましょう。
絶対的記載事項
労働条件通知書の事項を雇用契約書に含める場合は、前者の記載内容を絶対的記載事項として盛り込まなければなりません。
必ず記載すべき内容は、次に関係することです。
- 契約期間
- 期間に定めがある契約更新の基準
- 就業場所・業務内容
- 始業時刻・終業時刻
- 休憩・休日
- 賃金の決め方・支払いの時期
- 退職・解雇
- 昇給
パート・アルバイトとして雇用する場合は、以下に関係する内容を記載する必要があります。
- 昇給・賞与の有無
- 退職手当の有無
- 雇用管理に関する相談窓口の担当部署名・担当者名など
相対的記載事項
必要に応じて記載すべき相対的記載事項は、次に関係することです。
- 退職手当
- 賞与
- 休職
- 安全衛生
- 職業訓練
- 災害補償・傷病扶助
- 表彰・制裁
- 食費・作業用品などの費用
該当する制度を導入している場合には、これらも明文化しておきます。
雇用契約書を作成するポイント
労働条件のトラブルを防ぐために、雇用契約書の作成にあたっては次の事項に関する詳細の明示が必要です。
- どの労働時間制度で採用となるのか
- 転勤の有無
- 人事異動・職種変更の有無
- 試用期間
ポイントをそれぞれ解説します。
どの労働時間制度で採用となるのかを明示する
労働者との間で認識の齟齬が起こらないよう、どの労働時間制度を採用するのか明示しましょう。
労働時間制度には、通常の勤務以外に次の種類があります。
- フレックスタイム制:労働者が労働時間を決める制度
- 裁量労働制:専門職や企画職などに関して、あらかじめ定めた労働時間分働いたものと判断する制度
- みなし労働時間制:労働時間の把握が難しい場合に採用される制度
労働時間や休日に関する決まりは次のとおりです。
- 労働時間:1日8時間、1週間40時間まで
- 休日:1週間に少なくとも1日、4週間を通じて4日以上
以上を考慮して労働時間制度の取り決めを行い、雇用契約書に記載しましょう。
法定労働時間を超えてしまう場合、労使協定を結び所轄労働基準監督署に届け出る必要があるため注意してください。
転勤の有無を明示する
労働者にとって転勤の有無は、私生活をも左右する重要な事項です。
訴訟トラブルに発展するケースもあるため、雇用契約書には次を明記しましょう。
- 転勤が発生する可能性のある雇用契約なのか
- 転勤は発生しない雇用契約なのか
- 転勤命令がある場合は従う必要があるのか
「新支店への転勤を命じることがある」など、想定される転勤事項も明示するのをおすすめします。
また、採用面接の際に転勤の有無を口頭で説明するのも、トラブル回避の一助となるでしょう。
人事異動・職種変更の有無を明示する
労働者の希望に関わらず、人事異動・職種変更の可能性がある場合は、雇用契約書に明示しましょう。
記載がないと、企業が人事異動・職種変更を命令できない可能性もあります。
「営業職としての成績が思わしくないため、事務職への移動命令を出したところ拒否された」などのトラブルにもつながりかねません。
特定の専門職として採用する場合は、その職種に限定して配属する旨を記載しましょう。
労働者の解雇を検討する際に、「他の人事異動・職種変更の検討もなく不当に解雇された」というトラブルを防ぐことができます。
試用期間を明示する
正式な採用の前に試用期間を設けるのであれば、何ヵ月程度かを明示しましょう。
雇用契約は試用期間中にも発生しますが、試用期間の詳細を明記しておくと解雇するための要件を緩められる可能性があるためです。
試用期間の詳細を明示すれば、万が一新しい労働者の雇用契約の継続が難しい場合に、対応をしやすくなります。
なお、試用期間の長さにも注意が必要です。
明確な基準はないものの、常識を越える試用期間は公序良俗違反に問われる可能性があります。
【雇用形態別】雇用契約書を作成する際の注意点
正社員や契約社員、パート・アルバイトなど、雇用形態ごとで詳細に明文化すべき事項はさまざまです。
ここからは、雇用形態別に雇用契約書を作成する際の注意点を解説します。
正社員
正社員は労働期間の定めのない無期労働契約を締結します。
そのため転勤や人事異動、職種変更、退職金の支給、昇給制度など将来に関する事項を詳しく記載してください。
また、正社員の災害補償や安全衛生、教育訓練なども詳細に明示しておくことで、労働者は安心して雇用契約を結べるでしょう。
契約社員
契約社員は、労働期間を定めて契約を結ぶ有期労働契約であるため、契約期間と更新の有無を記載する必要があります。
更新予定がある場合はその条件の詳細を明示し、更新予定がない場合は「更新しない」とはっきり文章にしてください。
なお2012年8月の労働契約法改正により、無期転換ルールが新設されました。
有期労働契約が通算で5年を超えた場合は、労働者の希望により無期労働契約に転換できることを念頭に置いておきましょう。
パート・アルバイト
パート・アルバイトは、労働日数や労働時間に応じて雇用契約書を作成します。
契約期間を1年と定めて契約を結び、必要に応じて更新していくケースがほとんどです。
パート・アルバイトでも日数に応じた有給休暇の付与が必要になるため、与えるべき有給日数を記載しましょう。
また、パート・アルバイトの場合に必ず記載すべき事項として、昇給・賞与の有無、退職手当の有無、雇用管理に関する相談窓口なども挙げられます。
雇用契約書のテンプレート
雇用契約書は、あらかじめ企業に応じたテンプレートを作成するのがおすすめです。
それぞれで必要となる事項を用意しておくほか、正社員や契約社員などの雇用形態別の雇用契約書を作成しておけば、業務効率が良くなるでしょう。
雇用契約書のテンプレートを利用したい方は、こちらのページからご利用ください。
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正しく雇用契約書を作成してトラブルを防ごう
雇用契約書は労働者を守るだけでなく、企業を不要なトラブルから遠ざけるためにも役立ちます。
労働条件を確認し双方合意のもとで契約を締結すれば、労働者と企業のミスマッチを防ぐこともできるでしょう。
労働条件通知書の事項を雇用契約書に含める場合、絶対的記載事項の網羅は必須です。
一方の相対的記載事項は、企業により異なります。
企業体制を確認し、労働者が安心して契約できる雇用契約書を作成しましょう。